【また、あした】















 10/5。 深夜に電話がかかってきて。


 誰かと思って出たら、御柳芭唐。


 告白されて、丁寧にお断りしたらかえって懐かれてしまい、


 それ以来、毎日のように好きだとメールしてくる、他校の後輩。


 たしかに最近は気が向いたらメールを返している、だけど。




  「鶫さん、今日、オレの誕生日なんすよ」




 こんな風に浮かれた声で電話をもらう関係じゃなかったはずだ、たぶん。




  「…っと、そりゃ、よかったね。17歳だっけ?」


 

 とりあえず、当たり障りのない返事を返す。




  「そうっす!
   で、誕生日ついでにおねがいなんすけど」



  「…おねがい?」




 ちょっと警戒し、聞き返す。


 こんな深夜に、御柳からおねがいなんて、怪しすぎる。


 内容によっては、電話を切ろう。


 通話終了ボタンに指を置いて、

 なに?と返事を返す。


 すると、御柳がさっきよりさらに浮かれた声で

 『おねがい』を口にした。





  「誕生日おめでとうって、言ってくれません?」


  「はぁ?」




 なんなんだ、この男は。


 聞けない頼みではないが

 あまりに突拍子もない願いに、思わず呆れた声が出た。




  「だから、鶫さんの口から聞きたいんすよ」


  「なんでよ」


  「それ聞いたらヤボっしょ」


  「気持ち悪い」


  「ひでぇ」




 電話の向こうで、明るく笑う声がする。


 その声に、真摯な(例えば、恋愛とかそういう感じの)
 響きがないことに少しだけ落ち着いて。


 奴がケラケラ笑っている間に、不意打ちで、言った。





  「誕生日、おめでとう」




 僅かだけ、本当にお祝いの気持ちをこめて伝える。


 電話口から、すぐに「反則だー!」とか、
 ふざけたような声がするかな、と思ったが
 予想に反し、声どころか、なんの音もかえってこなかった。


 さっきまでの笑い声も消え、静寂が急に落ちてくる。

 シンとした空間が、ひどく耳に痛い。


 
  (電波悪いのかな?)


 携帯をみても、アンテナはばっちり3本。


  

  「御柳?」




 自分のくぐもった声が、ひどく不安気に響いた。


 やがて電話越しに、御柳の唇から、かすかな吐息がこぼれる。


  


  「鶫さん。」


  「よかった。静かになったから、倒れたかと思ったよ」

  
  「倒れてはないっすけど、頭真っ白になってた」


  「真っ白?」


  「オレ、いまなら空も飛べそう」


  「はっ?空?なんで?」


  「なんつーの?すげー万能感。
   あと、幸せで溶けそう」


  「溶けるな溶けるな」

 
  「じゃあ、死んぢゃいそう」

  
  「死ぬな死ぬな」


  「鶫さん、すげーっすよ。

   やっぱ誕生日って、大好きな人になら、祝われても嬉しいもんなんすね。」


  

 聞き捨てならない形容動詞詞が入ったが、あえてそれはスルーする。


 それより『祝われても嬉しい』という言葉が、ひっかかった。


 御柳はイベントごとが好きそうだと思っていたが
 誕生日が嫌いなのだろうか。
 




  「あんた、いままで自分の誕生日祝われるの嬉しくなかったの?」

  
  「なんつーか。また1つ年取るのって、ぶっちゃけオレには苦痛で。」


  「なんで?大人になりたくない、とか」


  「えーっと、なんつったらいっかな。

   ある人の年齢、超えたくないってのがあって」







 苦笑とともに、何気ない風に呟いた御柳の言葉がやけに切なく響いた。


 ある人。


 そっか、そういうことか。


 御柳のかなりデリケートな問題に、

 あたしはどうやら踏み込んでしまったみたいだった。


 興味本位で、御柳にこんなことを言わせてしまった自分の無神経さを後悔する。


 だけど、せっかく見せてくれた弱味を、弱味のままにしたくなくて。


 伝えたい言葉を探り

 丁寧に想いを選んで、伝える。





  「あたしは、その人のこと知らないけど」


  「…ん。」


  「ずっと16のままじゃ、
   あんたとは恥ずかしくて、デートできない。一生。」
   

  「…へ?」


  「だから、年とったこと、喜びなよ。

   おやすみ。おめでと。」



  
 言いながら、気恥ずかしくなって電話を切った。


 全く、自分ったらなんてことを年下の男に言っているのだ。


 いつも自信満々だから
 寂しそうな声に、ほだされただけだ。きっと。


 誕生日だから、
 リップサービスしてあげた。


 そう。それだけ。





 時計をみれば、深夜1時を回ってる。


 明日も朝練あるし、そろそろ寝なきゃと電気を消して布団に入った。



 携帯のアラームをセットしようと手にした時、

 タイミングよくメールが入った。


 内容を確認し、あたしは墓穴を掘ってしまったことを知る。








  「ばーか。」




 とりあえず、一言だけ。


 携帯に向かってメールの感想を呟いて。

 
 あたしは幸せな気分で、眠りについたのだった。





 

   From:御柳芭唐

   さっきはドモ。
   20xx/10/5 01:30

   やっぱ、鶫さん最高だわ。

   じゃあ17になったってことで
   改めてデート誘いますね。

   今日の17:00、十二支まで迎えに行きます。

  

      鶫さん、愛してる
                    芭唐 
                        
















end






back