「それとあんた、誕生日だったんだね。
おめでと」
引きずる恋は、求めているものじゃない。
痛みはいらない。
愛じゃない。
顔を緩めて笑ってやる義理もない。
なのに、なんでこんなこと、言ってやってるのか。
言葉を紡いでから恥ずかしくなって
目の前の無駄に大きな背中に、顔を埋めて表情を隠した。
目を閉じると、
情事に濡れた芭唐の体から、僅かに自分の香水の匂いがする。
みっともなくしがみ付いて追いすがっているような、残り香。
「ありがと」
男の首筋が僅かに動いて、声があたしの後悔を優しく覆った。
胸が、ぐいと痛んだ。
さっきまでどれほど強く愛咬されても、弾かれても
快楽しか追わなかったくせに。
壊れてしまった感覚器官を呪って
痛みを誤魔化すために、少し日に焼けた素肌に噛みついた。
「痛てーよ」
「痛くしてる」
「欲求不満?」
「ふざけんじゃないわよ」
「まだ怒鳴るほどの元気あるんだ」
「死ね」
「声掠れてるくせに。」
「喉が乾いてるだけ」
強がると、腰を引き寄せられて
唇を舌で撫ぜられる。
嘘つき。
揶揄するように、咥内に侵入してきた舌に、無防備な舌を吸われた。
抵抗しようと背ける首を捕まえて、
芭唐が角度を変えてあたしの中に入ってくる。
強引にキスをするなんて、この男にしては珍しい。
軽く受け流したように見えていたけど
実は、この男もあたしの言葉を気にしていたのだと、知る。
長い付き合いで、こんな些細な仕草から相手の変化が分かるのに
この男の本心までの距離は、すごく、遠い。
「舌、出して」
言われるがままに出した舌を、芭唐が八重歯で甘噛みした。
「なにすんのよ」
「仕返し」
「いいわよ、そんなもん返してくれなくても」
「『ゼロの関係がいい』って、鶫さんの口癖じゃん」
私の剥き出しの肩を辿り
目を細めて口角を上げるこの男が憎い。
調子にのって耳朶を撫ぜる芭唐の手を払いのけて
あたしはベットに倒れこんだ。
バフ、と安い布団から埃が舞う。
枕を胸元に抱きしめて目を閉じるあたしを横目に
芭唐は煙草に火を点けた。
セッターの煙が、視界に靄をかける。
どんなにこの男との思い出をゼロにしようとしたって、
きっとこの煙をあたしは忘れられない。一生。
閉じれない意識で、
白く霞む記憶に締め付けられながら、あたしはまた、目を閉じた。
end