眼を、開いてはいるのに







 柔らかい月






水に映る、月。

ゆらゆら揺られ、ぐちゃっと潰れる。


乱反射した月の光。

綺麗の欠片も、ない。



「あー、またぐちゃぐちゃになっちまった」



猿野くんは、水面の月を覗き、顔を顰めていた。


柔らかい月。

池に猿野くんが息を吹きかける。

水面に波紋が生まれ、月に辿り着き、月はまた、形を歪めた。



「なんか、すげー嫌だ」



顔を顰めて、猿野くんは僕の指を握った。


月はしばらく形も曖昧に、水面に浮かんだ。


空の月は、とても美しく、

水面の月は、不安定でとても儚い。

それを彼は嫌だと言った。


自分の行為で、なおさら揺らぐのが、嫌だと。

自分の吐息で、形を崩していくのは、辛いと。


僕の人差し指を握ったまま、消えいるほど小さく、呟いた。


泣いてるのか。


俯いた猿野くんの顔を覗き見ると、泣くでもなく、なんの色も浮かべない顔が見えた。



「オレじゃ、だめなのかな。」


ひとり、小さく呟くと。

猿野くんは、頑なに、なにかを拒むように握っていた手をほどき

僕の人差し指から離れた。


温められた指が、覚えていた温もりの分だけ、冷える。


満ち足りた月は、なお水面を漂う。


僕が、帰ろうか。と立ち上がると、月は、僕の影で色を落とした。



「僕も月、殺しちゃったね」



僕がにこり笑うと、猿野くんは泣きそうな顔で僕に抱きついた。


柔らかい月。


見せかけの満月。


ほら、猿野くん。

僕に抱きついているから、君には満月が見えないんだよ。


空には大きな月が浮かんでいる。

それを君は見れるのに、殊更に顔を背けて見ようとしない。


そして僕はその事実を、君から君の求める温度と引き換えに


影を落として、潰す。



「ごめんね」



泣きじゃくる猿野くんを抱きしめながら、僕はそっと呟いた。








end






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